アクセルの私とブレーキの彼

キッカケはクリスマスに通話アプリで7分話しただけだった。

何を話したかはもう覚えていないけど、なんとなく「センスが面白い」と思ってインスタを交換した。

 

そのままインスタで夜が耽るまで話した。

話していて好意的に思うことは今までも経験したことがあった。

しかし、どこか「違う」人ばかりだった。いや、人は誰しも違うのだから当たり前なのだけれども、贅沢にも一番合いにくい部分が合っていてほしいと願っていた。

今思うと、今まで自分が大切にしてきた「The・自分」という部分を分かって共感ほしかったのだと思う。

 

私の見てる方向をスッと一緒に向いてくれる彼は、私が感じていた「違う」ことの苦しみから解放してくれた。

そんな人が現れることは運命だと思ったし、このままで終わらせたくないと思った。

きっと彼も少なからず似たことを思っていたのだと思う。通話した後に、とりとめのない話をお互いに報告しあうことで、縁を必死に繋ぎ止めた。

 

元旦に2回目の通話をしたときは、晩御飯の時間を除いて、夕方から深夜まで、たくさん話した。人生についてなどの硬い話から、恋愛遍歴などの甘い話もするようになった。

 

「私たちの距離が近かったら会いたかった」→「どうにかすれば会えなくはない」→「会いたい」→「会おう」

 

お互いに会いたい欲望を叶えようとどうにかやんわりと自分たちを誘導していった。

お互いにそうやって同じゴールに向けて歩み寄っていったことで話はトントン拍子に進んだ。

 

たった通話三回で会うことになった。

しかし、不思議なくらい心配はなかった。すごく彼が誠実な人だということは伝わってきていたし、自分が彼に惹かれていることも、彼が私を嫌ってはいないことも気付いていたから、危ない目になるかもという危険な想像はあまり思い浮かばなかった。rin音のsnow jamを聴いて大きくなっていく彼への気持ちと彼は私に会ってどう思うだろうという不安に一喜一憂した。

 

夜行バスで朝方に京都駅に着くと、初めて見る彼の顔や身長に、想像の答え合わせをした気分だった。

会ってみた第一印象は思ったより綺麗な顔立ちで少しラッキー。

駅からホテルへ行く道中、彼は電話の時と変わらない口調で話してくれた。だから気まずさも緊張もなかった。

 

部屋に着くと密室で少し緊張した。緊張を解すために自分から物理的に近付いた。彼は少し驚いた表情をしたあと、それを受け入れてくれた。

彼は私のこと嫌いではないだろうと思ってるから積極的にスキンシップを謀れるが、ポーカーフェイスな彼の考えてることはなかなか分からなかった。

でも、距離を最初に詰めたことで初対面という薄い壁を取っ払うことができ、ぎこちなさがなくなっていったように思う。

二人で仮眠を取ってから準備をして、庭園や市場、看板のないお洒落なラーメン屋、カラオケ、裏ワザで入れる素敵なカフェ、テニスコートのあるホテルへ行った。

 

庭園で橋を八ツ橋みたいと言ったら、外側が焼けてる感じがするよねって肯定しながら自分の考えとして足してくれたり、二枚岩の橋には、個包装のお菓子みたいって言ってくれた。「滑りやすくなっております」と書かれた看板の先の橋を渡るとき、私が念を押すように滑りやすくなってるんだねって言ったら、橋の真ん中で「布団が吹っ飛んだ…」とちゃんと滑ってくれた。

この感じすごくいいなと思った。胸が踊った。

 

バスに乗る時、二人席が空いてなくても、座りなって奥に先に座らせてくれた。バスでパスモを使えるか不安だと言ったら、さりげなく代金を準備してくれていた。

 

ユニクロに行って服を見た時、私が好きかもって言った服を元々欲しいと思ってたから今度買うって言ってくれて、好みが似てるのかもって思った。マネキンを見て偏見を言う遊びをしていたら、加勢して一緒に遊んでくれた。

 

よく分からない商店街の古着屋さんへ行った時、彼はどんな服を合わせてもよく似合っていたからマネキンにするには最高だった。優しそうなカーディガンを似合うと言ってあてがったら、これは私ちゃんの嫌いな性格悪い男の着る服でしょ?って言ってくれた。私のセンスが伝わってるのも、それを踏まえてコメントしてくれるのもすごくすごく嬉しかった。それが楽しかったと言ったら、彼も良かったなぁと言ってくれたことも幸せに思った。

 

交差点に戻って、京都らしいお昼にするか、お洒落なラーメンにするか話し合いした時、

京都らしいお昼も普段あまり食べないからいいけど、ラーメンのほうがテンション上がると、相手の様子を伺いながらも自分の主張もしてくれた。上手いなぁ。

ラーメン屋さんの情報量を、私が一番楽しめるように調節してくれた。

看板のないお洒落なラーメン屋さんに入ると、様々なことを知ってることにもかかわらず、それを鼻にかけることはしなかった。スッと箸の引き出しを引いてくれて、食べ物もシェアしてくれて、調味料の使い方もさりげなく教えてくれて、食べる速度も気を使われすぎなくて、とても居心地がよかった。

 

錦市場へ行く道中、すごくお洒落な美容室みたいなお店があった。オシャレだなぁって思ってたら、看板を見て、「カヌレ!?」と二人で声を合わせた。まさか同じタイミングで同じトーンで同じ事を言うとは思わなくて驚いた。

錦市場では「俺、じゃことかめっちゃ好きなんだよね」って店頭を見て真剣そうに言う姿がたまらなく愛しく感じた。出汁の試飲しに行こうと誘ってくれたのも、金銭感覚みたいなものが私と合うなと思った。歩いてるときに、見たいものあったら見て良いからねって声をかけてくれたのが、私もいつも他人に気にするところだったから、似た価値観を見つけられて嬉しかった。

 

カラオケを予約してくれてカラオケへ。

彼は凄く歌が上手かった。甘い歌声に終始蕩けてしまいそうだった。彼の後に歌うのは緊張したが、歌ってるときにブルッと震えてくれてるのが見えて、なんとか自信を取り戻して歌うことができた。遊助のライオンを好きだと言って歌ったから、今まで自分の幸せよりも他人の幸せを優先してきたのかなと彼を想い胸が苦しくなった。数曲歌ったところで彼は眠くなってきたと言ったので、私の太腿に彼の頭を置かせた。彼が寝ている間、手持ち無沙汰だったので首筋をマッサージしたら悦んでくれた。

起きてからの彼は私に合わせてゴリゴリのテンポの曲を入れてくれた。私がおもいっきり歌うと合わせるように彼も頑張ってついてきてくれて楽しかった。

 

カラオケを出てお洒落なカフェへ。冒険のような面白い仕掛けで入った地下室には素敵な空間が広がっていた。

コートを脱いでワンピースで写真を撮りたいと言うと、その方が合うと賛同してくれたのが嬉しかった。人がいなかったから後ろから抱きつくと「あらお姉さんお店で破廉恥ねえ」なんて言われて言葉選びと倫理観がいいなと思った。料理が運ばれてきて、私のも彼のも凄く美味しくて上品でマリーアントワネットになった気分だった。目の前にいた考え込む天使で大喜利を振ったらちゃんと応えてくれたのも嬉しかった。出ようとなったとき、彼が後ろに座る着物美人に気遣って人のいない場所で上着を着ていて、なんて気の回る人なのだろうと思った。

 

カフェを出るともう夕方で電車に乗って中書島へ行き、歩いてホテルへ。

下らない会話も、彼の価値観や考え方についても、彼の大切な人についても、未来についてもたくさん話した。

彼はもし自分の名前を変えるとしたら、「みずき」か「なつき」という中性的な名前が良いと言った。「なつきなら陸上部の先輩っぽくて、みずきなら…」と私が考えてると「バトミントン部の後輩っぽいよね」って彼も同じ目線で考えてくれた。

じゃあ私の名前は何っぽい?と聞くと、深く考え込んで、「名前は見つかってないけど、色で言うなら、黄色にオレンジと赤が少し混ざったような色なんだよなぁ。秋っぽい色だから名前にするならあきとかで、漢字は秋じゃないもっと繊細な感じかなぁ」と言ってくれた。私もその例えが私っぽいと思ったし、私の活発さと繊細な性格も見つけて、それを黄色にオレンジという的確で綺麗な色で表現してくれた気分を害さないチョイスと彼のセンスに脱帽した。

 

会話が纏まったときにちょうどホテルに着いた。駐車場を一周して二人で選んだのは、テニスコートが付いている素敵なお部屋だった。

荷物を置いて、二階のテニスコートソフトテニス

最初は上手くできなかったけど、少しずつ上達していく。話も弾むようになっていき、お互いのラリーを繋げようとする空気がなんとも堪らなかった。

テニスを終えると、二人の関係性について話し合った。お互いに異性としても惹かれ合ってることが分かった。踏み込んでしまっても、きっと彼となら変わらない関係でいられると信じることができた。お互いに変わらないことを固く決意し、自分達で元々していた「踏み込みすぎない約束」の穴をついて違法ギリギリの合法みたいな絶妙な二人の関係性を作ることになった。

関係を進ませた結果、一人になったときに、ふと、不安になってしまうことはあったけど、彼は変わらないでいてくれた。なんなら前より何でも話せる良い関係になれたとすら思う。

 

彼が時間を見ようとするときに、私の携帯で時間を見てくれた時は紳士さを感じた。

お風呂に入り、髪を乾かしあって、ラーメンとうどんを食べて、彼にマッサージしてもらった。

ヒーリングミュージックをYouTubeで流したら、彼は今まで出したことのないダンディーな良い声でプラネタリウムのアナウンスのモノマネをしてくれて、新しい引き出しが見れて相当に面白かった。

そして、彼のマッサージはとても気持ちがよくてそのまま眠ってしまいそうなほどだった。脱力した体を起こして彼にお返しすると、私の施術に彼も脱力してくれて二人はそのまま眠りについた。

 

朝起きて、彼が寝てるのを確認して、こっそりと化粧をする。少しでも可愛い自分で彼と一緒にいたいと思う私に私がキュンとした。途中で彼が目覚めて顔を洗いに来た。眠そうに目を擦る彼は無防備で堪らなく可愛かった。

二人でまた布団に入り直し、ダラダラと過ごす。彼に口付けてリップだけ塗ってないと囁くと彼は可愛いと愛しがってくれた。服がはだけそうになっていたら直してくれる彼に心がふわっとした。

彼のアラームが鳴り、準備をして駅へ向かって歩く。

彼はずっと私に「してあげる」と言わなかったから、きっと私の価値観も分かってくれると思い、「私は人に優しくすることをオナニーだとおもってるんだよね」と言った。彼は「わかる。俺もそう」と言ってくれた。こんなよく分からない言葉を一発で分かってくれるなんて思ってなかったから心の底から驚いた。いつか彼の言った「俺らはパズルのピースの一部分が同じ形をしている」という言葉が本当にその通りだと思い、すごくすごく嬉しかった。

 

駅が近付くと、もうすぐ別れだと思い寂しくて何を話せば良いか分からなくなってしまった。彼は無言で余韻を楽しみたいと言ったけど、私は笑顔を作るのが精一杯で、話さないとマイナスなことばかりが頭を埋め尽くしてしまいそうで、思い付いた言葉を必死に喋った。

彼からの、自分で自分を傷つけて強くなろうとしてるという指摘は、ズバリ言い当てられたのが気持ちよくて苦しくて改めて自分の弱さを気付かされた。

もう会えないと思うから寂しいと思うんじゃない?って彼は励ましてくれたけど、私はなんとなく、もう会うことはできないような気がしてならなかった。

気にしすぎだよって彼は言って、よく言われるって私が返したら、俺もよく言われるんだよねなんていうから、私の弱いところまでも優しく撫でてくれるみたいでやっぱり私の二歩先をまっすぐ歩いてるんだなぁと尊敬してしまう。

電車に乗ると彼は話さなくなるから、私は独り言のように結婚とか子育ての相性良さそうだなあなんて一人でほろほろと言葉を溢した。

 

彼の職場の最寄り駅について、彼は私を繁華街へ行くように勧めた。財布を持ちながらまたねと手を出すから、なるべく軽めにじゃあねと言って財布にハイタッチした。私はそのまま振り返らずにスタスタと歩き出した。

 

散策中、ふと彼を思いだすと、彼がマリオカートのゴーストみたいにずっと着いてきた。一緒ならこんなことを言ったかなとか、こんな顔をするかなとか、ついさっきまで隣にいた人を想像するのは容易で苦しかった。

そんな撹乱状態では一人を満喫できないと気付き、昼食後はゴーストの彼ともちゃんとお別れをした。そこからは彼を都合よく旅の登場人物に使わずに、ちゃんと1人で楽しむことができた。

 

帰ってきてから彼がしきりに歌っていたVaundyのnaporiを聞いた。

登場人物のキャラクターも似ていて、二人の共有した時間にぴったりの曲だと思った。

私がこうやってブログという形にして思ったのは、他の人と交際したりして大人になっても、思い出すのは彼のことだろうなとおもったのに、彼が大人になって思い出すのは私ではないだろうなということ。

「じゃないかな」の捉え方が自分の心次第で上手く作られているなぁとしみじみ思った。

この曲が消えない限り彼を忘れることもできないんだろうなぁ。街やテレビで流れそうな有名な曲で例えやがって。当分は彼への気持ちで苦しみ続けなければならない。忘れた頃に懐メロとして流れてまた思い出してしまう。残酷なヒトだ。

 

私っぽい私の好きな曲を知ってほしくて、WiennersのMYLANDを授けた。彼は聴いてくれたかなぁ。聴いてくれて私っぽいと鼻で笑ってくれたらいいなぁ。良い曲だと思ってくれたらいいなぁ。なんなら彼を支える曲になれたらいいのになぁ。ならないだろうなぁ。悔しいなぁ。うん、蛇足。忘れよう。

 

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私はこれから彼とどうなっていくのだろう。

疎遠になってしまうのかもしれないし、絶妙に続いていくかもしれない。

 

でも、あの時の彼は下鴨神社の吽形のように私の左対になってくれた。

 

どうなったとしても、その事実だけは揺らがすことなく、私の中で大切な思い出としてしまっておきたい。

 

決意を決めた彼を見てたらなんか私も頑張りたくなった。仕事が始まるまでのあと2ヶ月、何を頑張ろうかな。とりあえず走ってみようかな。うぉぉぉぉ!