2020年10月31日、一人でライブに参戦したことがきっかけでその人と出会った。
会場のゴミを拾って捨てるようなできた人だった。野外音楽ライブなのにレジャーシートやたくさんのお菓子、飲み物をリュックパンパンに詰め込んでいて、とても準備の良い人だった。
会ったその日に恋をした。会場で解散したくなくて、車に彼を乗せて1時間近くドライブがてら彼を駅まで送った。
彼が行く次のライブに誘われて行くことにした。ライブ終わり、だいぶ強引に彼の家に泊まらせてもらった。
それからも、彼が行きそうなライブに偶然を装って参戦した。
見つけて声をかけると話してくれるし、会場から駅までの帰り道も一緒に帰ってくれた。
告白まがいのことも言った。彼は見事にスルーしてくれた。
ライブに空いてる時間やお金をすべて費やす人だったから、付き合えるとおもってなかったし、付き合おうとも思ってなかった。
それでも惹かれているのは事実だった。
ずっとライブに行けば会える存在だと思ってた。
1月後半に被ってたライブで彼は1月いっぱいで実家に帰ると言った。
彼と会える最後のライブが彼の家の近くだったから、送別会としてお酒を飲みに行こうと誘った。彼も了承してくれた。
ライブは卒業をテーマにした公演で私と彼の最後にふさわしい内容に思えた。別れの歌がやけに染みた。
終わると、たくさんの飲み屋が閉店する中で1件だけやっているお店を見つけて入った。レモンサワー飲み放題だったから、自分の機能が壊れて自分の家に帰れなくなるまで必死にお酒を飲んだ。そうでもしないと彼といれないような気がして、彼への一歩を踏み出せない気がして必死に自分を壊した。
壊した自分がどうなったかの記憶はないけど、気付いたら彼のベッドで二人で寝ていた。撮った記憶のない人の写ってない部屋の写真が撮ってあって、その時の自分が楽しんでいたことが伝わった。
目が覚めると彼も起きて彼は私の腕に収まった。彼は何も言わなかったけど、「始まる」のが分かった。
彼は今まで一切私のことを呼んだことがない。始まっても始まらなくても。
少し確かめたくなって、「こういうことするってことは私のこと嫌いじゃないってことだよね」と聞いた。「会ってからずっと嫌いじゃないって言ってたんやけどなぁ」と独り言かのように言ってくれた。それだけで何もかも十分だった。
そのあと「終わる」まで終始無言だった。きっとここまで彼に想いがなければ色々思うことがあったかもしれないが、彼のことを推しとして崇めていたから、幸せに思っていた。
起床のアラームが鳴って準備してライブのダサTしか見たことなかった彼のワイシャツ姿は尊い以外の何物でもなかった。アパートの出口で行く方向が逆になる彼と少し立ち話。
彼はSNSでライブ行ってるとか分かるからまた会えるやろって言ってくれたけど、私はもうきっとポリなんちゃらのライブにもテレなんちゃらのライブにも行かない。それにこれから仕事が始まって他の人のライブでさえ行くかどうか分からない。
ライブ被ってたやんなんて言われたから合わせてたんだよぉって小突いたらそれもさらっとかわされた。どこまでも流せる人だった。なるべく明るくじゃあねと手を振って駅へ向かった。
歩いてるくらいから二日酔いの胃の不快感が発生した。自分の壊れた体が健気でいとおしかった。
電車に揺られると不快が悪化してもっと辛かった。苦しければ苦しいほど、彼を好きだった気持ちが本物だったように思えて、嬉しさもこみ上げてきた。
どこまでも推しでいてくれた彼は、私の気持ちを一度も拒まなかった彼は、一般的には罪深いけれども私にとっては優しさの塊だった。
でも、結構言ってた「俺モテない」は嘘だとおもう。
そこだけは有罪。