あの人の家の扇風機が無機質にわたしのほうを見る。
わたしのことを見透かしたように、
そんなことはどうでもいいかのように。
汚い空気もそうでもない空気も全部勢いをつけて冷たく私に送りつける。
私の甘ったるくて拗れた空気も切ってほしいのに、
なかなか後ろにまわることはできない。
何を冷やしてるのかもよく分からない、
冷やしてるのかさえもわからない
扇風機が
ただスイッチがつけられたというだけのために
動かされつづける。
もし、私と話せるのなら、
どんな言葉をかけられるのだろうか。
優しそうででもこわくて
聞きたいのに聞けない。
どうしたら私はあなたを大切にできますか?
ずっとは一緒にいれないけれど
今だけあなたを大切にしたいのです。
使われることも使わないことも
扇風機に生まれてしまった限り
きっと、どっちも嫌だろうな。
推し測る気持ちだけでも
届けばいいのに。
そんなことすら届かないから
罪悪感に苛まれながら
気づかないふりを続ける。
そしてその部屋を出て次のどこかへ。
温かくてモノも心なしか優しく見えるどこかへ。
そこでもその場だけの全力の優しさを
与えたいとおもいながら。